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前田美穂子は写真を撮る事が生き甲斐です。写真は此処では無いどこかの風景を切り取り、私達に場所や時間を超えて美しさを伝えてくれます。
彼女とは同年代で家が近所だった事も有り自然とよく遊ぶ仲になりました。活発な女の子で、家の中でおままごとやあやとりをするよりも近所を冒険する方が好きな子でした。前田美穂子は昔から感受性が強く、周りの小さな事にも良く気が付く子です。遊んでいる時は必ず見つけた動物や昨日は蕾だった花が咲いた等些細な変化を感じ取り私に教えてくれました。
そんな彼女が写真に興味を持ったのは1冊の本が切っ掛けです。それは詩集でした。家の本棚から見つけたと言うその本は季節折々の詩を集め、美しい花々の写真と共にまとめてありました。その本をまるで宝物を発見した様に目を輝かせて見せてくれ、そこに写された自然の風景を楽しそうに指差した姿は今でも覚えています。詩は少し難しく、その頃はまだ意味はよく分からなかったでしょうが美しいその写真に彼女は心を奪われた様でした。特に木漏れ日を受け、柔らかく発光した様に写された花の写真がお気に入りで、そこのページには常にしおりが挟まれていました。それから近所を冒険する時には必ず親から借りたと言うカメラを持って駆け回りました。
人工物も撮っていましたが、どちらかと言えば自然や動物を良く撮っていました。田舎に住んでいた為自然はどこにでもあり、毎日色々な所に繰り出しては憧れた本の様に素敵な写真を撮ろうと工夫していた様です。たった1冊の本でしたが前田美穂子の今後に強く影響し、彼女を構成する様々な物の土台となりました。あの本が有ったからこそ彼女は今の姿になったのです。

なぜ前田美穂子は自然を撮る事に拘るかを聞いてみました。それは忘れやすいからだそうです。人は親や兄弟、友人が覚えてくれています。特別な出来事が有ったら、その日の笑顔は繋がりが有る人が強く記憶していてくれるでしょう。しかし自然は風景の一部として流される事が多いです。その為人々の記憶に残りにくいと前田美穂子は考えています。ひっそりと咲いている植物はとても美しいのに、それが誰の記憶にも留まらずに忘れされてしまうのが寂しいそうです。そんな忘れ去られてしまう物を残して行きたいから撮り続けるのだと言っていました。その言葉通り前田美穂子が撮影した写真に写る花や木は生命力に溢れ、生き生きと美しく咲き誇ってその姿を残しています。
今まで撮った物を集めた中には何枚か人の写真も混ざっていました。しかしそこには必ず自然が写りこみ、その人の笑顔をより一層引き立てています。自然を完全な背景にしてしまうのではなく、人を主役として写しながらもけして引けを取る事の無い様な存在感で入れる写真技術は流石でした。
彼女が撮った写真は日常の一部を切り取った物が多いです。世界に誇る景色は自分よりも素晴らしい人が沢山撮って、沢山の人々に感動を与えて覚えて貰っているだろうから誰も見ない様な所を撮りたいそうです。そう言って裏山や小道を歩いて、植物の小さな変化も敏感に感じ取りながら撮影する対象を探して歩く姿は小さな頃冒険をしていた姿にそっくりでした。
自分だけで無く他の人々にも自然の素晴らしさを知って貰いたいと彼女は時々個展を開きます。個展は大きな規模では有りませんが、見に来てくれる人が楽しんでもらえる様にと言う気遣いが行き渡った物でした。

前田美穂子は大人になって旅行会社に勤め始めました。色々な国に行って様々な景色を見たいと思ったからだそうです。そうして国々をガイドをしながら飛び回りました。
観光名所を中心に回っていましたが彼女は誰もが目を奪われる滝でも建築物でも無く、道端の小さな花や家と家の間にいる動物なんかを撮っていたようです。自分の本当に撮りたい物をしっかりと知り、そこからぶれる事の無い前田美穂子の姿は堂々としていて素晴らしい物でした。
今は長年働いてきた会社を退職し、家で写真を撮りながらのんびりと暮しています。家の庭には植物が多く育っており、多少手は加えられていますが伸びのびと庭を彩っています。家の中にも数多くの植物や今まで撮った写真を飾っており、訪れる人々を癒しています。そんな開放的な家は良く近所の子供が遊びに来るそうです。遊びに来た子が自分が撮った写真を見て綺麗と言ってくれたり、カメラを持ってきて教えてほしいと頼まれた時は本当に嬉しいと目許を綻ばして言います。
月に何度かカメラ講座もやっているそうです。趣味でやっている事だからと無料で飛び入り参加も出来るそうで、近所の人々からも多くの人が参加している様です。内容の多くは近くの裏山で植物の種類や豆知識を教えつつ自由に撮ると言う物が多いそうで、技術的な事よりも楽しんでもらう事を重きに置いていました。
これからもこうして自然を身近に感じながら過ごし、その姿を収めていけたらと前田美穂子は語っています。

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